2016年9月5日(月)16:00ー18:00に第三回定期セミナーを開催します。
開催場所は同志社大学学研都市キャンパス快風館となります。アクセス方法は本ウェブサイトの赤ちゃん学研究センタへのアクセスをご覧下さい。
出生前診断・人工妊娠中絶を考える(ヒトの進化の観点から)
小西郁生(京都大学名誉教授、京都医療センター院長)
古くから、人工妊娠中絶を禁止した国や地域では女性の死亡率が著しく増加すること
から、”安全な人工妊娠中絶”はWHOやFIGO(世界産婦人科連合)の女性ヘルスケアの
最重要課題の一つである。この地球上では約500万年前にサルが二本足で立ち上がっ
たことによりヒトに進化したが、それに伴う身体の様々の変化のなかで女性の発情期
消失というイベントが生じ、ヒトはいつでもセックスできる存在となった。進化にお
けるこの重要なイベントは男女の深い愛情をもたらすと同時に、予期せぬ多数の妊娠
を生み出してきたのである。すなわち、人工妊娠中絶はヒトの存在と表裏一体であ
り、産婦人科医はこれを安全に遂行する義務を負っている。
医学の進歩はあまりにもドラステイックで、妊娠初期の採血だけで胎児の染色体異常
を高い確率で予測できる時代となり、ダウン症の子どもたちやご家族はとても注目さ
れている。一方、ヒトのゲノム解析が進むと誰もが”正常”とはいえない遺伝子をもっ
ていることもわかり、ダウン症も一つの個性であることが常識となってきた感があ
る。私が班長を務める厚労科研「出生前診断における遺伝カウンセリングの実施体制
及び支援体制のあり方に関する研究」の進捗状況を紹介したい。
胎児の人権、出生前診断
小原克博(同志社大学 神学部教授・良心学研究センター長)
胎児の人権をめぐる倫理的議論は「パーソン論」として展開されてきた。それは人間としての尊厳を与えられる境界線をめぐる議論であるが、医療倫理(生命倫理)だけでなく、法制度や宗教的な価値観とも密接に関係しながら論じられてきた。胎児の人権をめぐる具体的な事例として、米国においては中絶論争をとりあげ、その争点と共に、それがいかに大きな社会的関心事となってきたかを示したい。
また、胎児の人権や中絶問題に関係する別の課題として出生前診断、とりわけ、比較的近年あらわれてきた診断方法における倫理的課題をとりあげる。胎児超音波検査によるNT (nuchal translucency)の計測、新型出生前診断(無侵襲的出生前遺伝学的検査、NIPT)を議論の対象としたい。いずれも患者(妊婦および家族)の「知る権利」を拡大するという意味において「自己決定権」を強化している。生殖補助医療の技術的発展と患者の自己決定権の拡大の相乗効果がもたらす未来についても展望したい。
同志社大学赤ちゃん学研究センターは、今まで様々な研究領域で行われてきたものを融合させ、ヒトの起点である胎児期から乳児期にかけての行動、認知、身体の発達に関する基礎的な原理を明らかにすることによって「ヒト」から「人」へとかわる発達のメカニズムを解明することを目的として設立されました。
2016年度から文部科学省により共同利用・共同研究拠点として認可され、その事業の一つとして定期的にセミナーを開催することにいたしました。このセミナーは、①人の発達にかかわる様々な研究者を結びつけ、②子育てをする養育者の方々、保育・幼稚園の関係者、看護・療育の関係者などに最新の赤ちゃん学の知見を得ていただき現場で利活用いただくことを目指しています。上記関係者の他、ご興味をお持ちの方を含め、多くの方のご参加をお待ちしています。